若狭塗とは
若狭塗とは
若狭塗は、福井県若狭地方で江戸時代から伝承され、日本の伝統工芸にも指定される工芸品です。色漆を塗り重ね、貝殻・卵殻・松葉・金箔などで凹凸をつけたところを研ぎ出す特殊な『起こし模様』などの技法を用いることから、 “変わり塗り“と呼ばれています。
江戸時代の初期に、藩お抱えの塗師だった松浦三十郎が中国の漆器を真似て作ったのがはじまりとされます。その後、三十郎の弟子たちが技術を発展させ、小浜藩の産業として保護奨励された若狭塗の名は、世間に広く知られるようになりました。
日本国内の他の漆器産地では、お椀やお重などが作られていますが、若狭塗にはそれらの日用品があまりありません。馬具や刀の鞘などの武具や、お盆や菓子箱など、武士や商人の贅沢品としての側面が強いのが若狭塗の特徴です。
若狭塗の紋様
発案者・松浦三十郎の作った漆器は『菊塵塗』と呼ばれ、今のようにキラキラしたものではなく色漆だけを用いて模様を付けるものでした。現在若狭塗として親しまれている貝殻や卵殻、金箔などの装飾が入っているものは江戸時代の後期・文化文政年間(1803年〜1830年)のころから作られ始めたと考えられています。
また、若狭塗の一番の特徴とも言える多様な『起こし模様』は、それ以降の天保・弘化年間(1830年〜1848年)に大きく発展しました。起こし模様は松葉や糸、モミ殻などの素材を漆の下地材の上に置き、漆にできた窪みを研ぎ出す技法です。同じ素材を使っていても、配置の違いなどで多様な意匠のバリエーションがあり、江戸後期から明治初期には200種類以上の模様が存在していました。興味深いのは、素材に使われているのが草木などの自然のものや、糸などの身近なものであること。素朴な素材から生まれる絢爛な模様も若狭塗の魅力です。