
自然と寄り添い育てる『京銘竹』
手に持ったときの軽さと、程よいしなりが特徴の竹製の箸。竹の箸を好んでご使用の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回ご紹介する竹の箸は、竹の箸を愛用されている方も、まだ使用したことのない人にも使っていただきたい一膳。竹の肌と繊維が醸し出す優美さと、細い箸先にも関わらずしっかりと粘り強い使い心地が魅力です。
この箸の一番の特徴は、なんと言っても原材料である「竹」。伝統的な製竹作業を経た京都産の竹のみ名乗ることのできる『京銘竹』を使用しています。

この『京銘竹』を育てているのは京都府向日市で、京都でも指折りの竹材屋さんを営む清水勝さん。竹林の管理から、伐採、加工までを一貫してされています。
「孟宗竹(もうそうちく)っていうのは1470年に食用として中国から運んでこられた。その時『孟宗』っていう人が持ってこられたから孟宗竹っていう名前になったの。長岡京市に初めて持ってこられて、近くのお寺に石碑も残っている。ここの竹林も、ももともとは竹の子専用の藪やったかも」

京都府向日市は長岡京市・大山崎町とともに乙訓(おとくに)と呼ばれ、古くから竹の産地。特有の粘土質の土と、寒暖の差などの気候条件が密度の細かい美しい竹を育んできました。山裾には竹林が広がり、かぐや姫伝説発祥の地と言い伝えが残ります。
時代が変化する中で
珍しい四角い竹を見つけました。何に使うのか聞くと床の間などの建材として使うのだそう。
「昔はこういう角材を床の間の落としの所に使った。だけど今の人は床の間も掛け軸もしないでしょ。(数寄屋造りの建物を建てるような)ええ仕事は納期に押されてベテランがやってしまうから引き継げんのよ。今は宮大工みたいな人が育ちにくい。漁業でも竹を使っていたけどみんなグラスファイバーに替わった。うちの竹藪の中にも別の竹屋さんがやっていたのを、後継者がいないからうちにやってくれと引き継いだところもある。多い時はこのへん、30社ぐらい(京銘竹に関わる会社が)あったんちゃうかなあ。今はうち含めて3社。」と勝さん。
日本人のライフスタイルが変化し身の回りで竹製品に触れる機会も少なくなった今、清水銘竹は伝統的な京銘竹を製法を守り伝える貴重な存在なのです。

肌で勝負する竹の世界
山裾に広がる竹林にお邪魔させてもらいました。静けさの中に風が吹くと、竹の葉がサワサワと音を立て、竹取物語の世界にいるようです。どの竹ももたれかかったりすることなく真っ直ぐと天に伸びています。
「竹は木みたいに植林する必要なくって、自分で勝手に再生する。私らがある程度守ってやれば育つ。例えば、密集していると竹同士が交差して傷を付け合うからある程度空間を作ってやる。ある程度空間を作ってやると光合成しようと周りの竹より上に伸びようとする。でも周りの竹を全部切っちゃうと光合成して伸びる必要ないから下の方から枝を出しよるねん」
当たり前のように真っ直ぐ長く伸びる竹を作るためには絶妙な環境作りが大切なんですね。

「この若い奴はよく伸びてるでしょ」と話す勝さんにどうして見ただけで年齢がわかるのか尋ねると「若さっていうのは表面の汚れを見る。人間で言うたらその年に生まれたもんは10代未満、2年生で20代、3年生で30代、4年生で40代50代となっていくわけですわ。人間のお肌考えてもろたらわかると思う。1年目の竹は赤ちゃんの肌みたいに綺麗」とのこと。
竹を切り倒すのもチェーンソーなどの工具は使用せず、ノコギリだけ。
「山林やっている人は機械化されて、重機乗って、機械で切って枝はぷつぷつ切ってやりよるけど竹はそう言うことできへんのよ。木は皮むいて中を使いはるけど、竹は表面勝負やから、傷ついたら使えへん。運び出しも、ここからトラックまで人力で運ぶ。(トラックに)一段積んだら毛布敷いてやって。私らずっと竹の肌が傷つかんようにって意識でやってるから、それを理解してくれる人がお客さんとしていてくれる。『君んとこの竹は綺麗やな』って」

繊維と肌の美しい箸
今回私たちがお箸にするのは、2〜3年目の竹。肉厚が9mm以上あるものを使用します。
「京都の土は粘土質やからゆっくり竹が育つ。そうすると硬度の高い竹ができる。繊維がいっぱい通ってるってこと。すーっと通っていて綺麗やろ」と勝さん。
その繊維の美しさをお楽しみいただきたくて、漆の下から木地目が透けて見える拭き漆仕上げに。白竹と図面竹を四角形と八角形に加工し、計8種類からお選びいただけます。四角も八角も、1面だけ竹皮を残した意匠に。清水銘竹自慢の艶感のある竹の肌、すーっと通った美しい繊維を楽しんでください。
自然の力に任せながら、時折人が手を貸す竹づくり。「素朴なのに綺麗だなあ」と思うのは、自然と人がいい具合に寄り添い合って生み出しているからだと感じました。

図面竹とは
竹に人工的に模様をつけたもの。1年目の竹の表皮に硫酸と塩酸、土などを混ぜたものを専用の器具でつけることで独特な模様ができる。同じ模様は2つとなく、その趣からお茶やお花の世界で用いられている。
「人間のお肌と一緒。赤ちゃんの肌なんてふわふわで。だから1年目の竹に付着さすことによって、模様が安定して止まるわけ。それをええ天気の時にするの。風がきついと細かい滴がみんな飛んで『硫酸の雨』が降るから風のないときにする」
模様をつける時期は梅雨が明けて本格的な夏になる大暑(7月下旬〜)のころと昔から決まっている。「祇園祭が終わったらするねん」と社長の一言から歴史ある京都の暮らしを感じる。
text by 嶋田愛梨
photo by 堀越一孝

