お箸というと日用品、毎日の生活中でガシガシ使うもの。
それも、同じく食事をするときに使う器なんかより気を配らない存在。
お箸はついで、というか器の付録みたいな。
私もこの会社に勤めるまで、数百円で買ったお箸を何年も使っていた。
よくよく見れば結構痛んでいて、替え時をずいぶん逃してきたっぽい。
そういえばお箸って口に触れるものだけど、食事中にも器ほど目に入らないし、忘れてたなあ。
お箸の産地・小浜とは
まつかんの本社があるのは、福井県の西側・小浜市。
会社から路地をちょっと覗けば日本海が見える。
ザブーンと岩場に波が打ち寄せる日本海のイメージとは違って、穏やか。
このまちの人たちもおっとりと話す、気がする。
昔からの箸の産地で、この街に暮らしていると地元の人たちから「箸の内職しとんや」とか、
「箸の工場で働いとる」というのはよく聞く言葉。
住宅街を歩けば、箸の業者の車が内職をする家々を廻っているのを見かける。
ほんとにお箸の産業がこの街の人の生活に入り込んでいる感じ。
会社がある西津地区には特に箸の業者が多く集まっている。
西津には木造の細い家がギュッと集まって建っていて、昔からの湊町という印象。
もうちょっと前までは、西津の街を歩けば
箸の機械の音がして、塗料の匂いが漂ってきたらしい。
今は規模が大きくなって郊外に工場を建てて箸を作っているところが多い。
ものづくりの世界のことは、まだ何もわからないけれど、時代とともにものづくりの形が変わってくるのは仕方のないよなぁと思った。
だけど、びっくりしたのはまつかんのお箸のほとんどが、今でも日本というか小浜だけで作られていること。
それに人の手で作る部分がとても多いこと。
海外で作られて、最後は日本で仕上げて売っているのかと勝手に想像していた。
木地工場へ
働き始めてすぐ、木地(きじ)加工の現場に連れていってもらった。木地加工っていうのは、大きな板状の木材から細長い箸の形を切り出すところだ。
それから、またさらに細長い四角い木材にしていく。その時に箸先が持ち手より少し細い形にする。
手に当たる角を落として、四角とか五角とか、商品に合わせて適した形に変えていく。
最後に目で見て問題がないか確認する。一本一本確認していた。
言ってしまえば、2本の棒があればご飯は食べられる。
だけど、人の口に触れるものだから見えない気遣いが端々にあった。
簡単にちゃっちゃっと完成するわけじゃないのだ。
当たり前をつくっている
木地加工の作業は私たちの当たり前な部分を作っている感じがした。
お箸を手に持ってみると、手に合う合わないがある。
合わない箸は痛かったり少しスカスカしたりする。
それで食べられないわけではないけど、多分、そういう小さな違和感があるものは自然と使わなくなっていく。
現に、食器棚の中にそういう食器や箸が眠っている。
反対に、「そればっかり使っちゃう」っていう箸もあって、そういうのが違和感なくしっくりきているってことなんだと思う。
手に馴染んでいるとそれが当たり前に思えて、日頃意識もしなくなる。
そういうものは私たちの毎日にさりげなく寄り添ってくれる。
食事は日に3回、1年に365日。
日頃意識させられる場面はとても少ないけれど、しっくりと馴染んだ箸たちは私たちの生活を実は、毎日支えてくれている。
商品なんだから、随所に気を配るのは当たり前かもしれない。
だけど、それが当たり前だと私たちが思っているのは、そういうものを粛々と作る人たちがいるからだった。
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text by 嶋田愛梨 photo by 堀越一孝